遺言者が相続人中の一人に、ある不動産を「相続させる」と遺言した場合、遺言者の死亡によって直ちにその不動産の所有権は相続人に移ると解されるので、相続による所有権移転登記は相続人の単独申請ができることになります。仮にその遺言書に遺言執行者の指定があっても、遺言執行者が関与する余地はないことになります。
しかしながら、ある不動産を相続人以外の人に遺贈する場合は、遺贈を受けた人を登記権利者、亡くなった遺言者を登記義務者とする共同申請をする必要が出て来ます。当然亡くなった人が登記申請できるわけはありませんので、実際は遺言者の登記申請義務を承継した相続人全員が登記義務者にならなければなりません。でも、遺言書が無ければ権利を取得できたかもしれない相続人に、登記申請義務だけ負わせて協力してもらうのはなかなか難しいことでしょう。
相続手続きは不動産登記だけではなく多岐にわたります。なにをするのも相続人全員の関与が必要になるのは現実的とは言えない場合があります。S様の事例は相続人以外の人に財産を遺贈する旨の遺言書の作成でしたが、この様な場合は遺言執行者の指定は必ずしておくべき典型的事例といえます。